寄り道


国宝「松林図屏風」16世紀 東京国立博物蔵
国宝「松林図屏風」16世紀 東京国立博物蔵

長谷川等伯展(国立博物館 平成館にて3月22日まで)

 

国立博物館 平成館にて長谷川等伯展を観て来ました。若沖の後、しばらく心を打つ作品に出会っていなかったのですが、今回は等伯の冴えが伝わる納得できる大回顧展です。若沖は異端、等伯は正統、 活躍した時代も江戸後期(18世紀後半)と桃山時代(16世紀後半)と2世紀も離れているのに、共通点があるように思えてならないのです。長谷川等伯はアンチ狩野派として登場、長谷川派を率いた孤高の人物。没後400年という月日を一挙に縮めるコンテンポラリーな感覚を持ち、現代の日本人にまっすぐに訴えるものがある。時代の申し子であり、エッセンシャルな美意識をそのまましたためる研ぎすまされた技にすごさがある。豊臣秀吉や千利休に重用されたのも、等伯の贅沢さに通じる淡白に惹かれたからではないかと考えたり。等伯が雪舟の後継者を名乗り、日本的な水墨画をさらに押し進め、自然の姿に美意識を映し出した。薄墨やぼかしの手法、筆致のすごさという技術的なところも存分に楽しめるのですが、デザインの簡素さや奥行きの情緒がやはり別格でした。萩を右に芒を左にした繊細な「萩芒図屏風」では、わさわさと白い花と緑の葉が風になびく萩、そしてもう一方にもススキの白と緑の世界。左端に背の高い野菊をあしらってあり、どれにも目が行かず、かといって存在感がない訳ではなく、その場にいる臨場感はある不思議な屏風絵。もっとグラフィックに興味深かったのは「波濤図」。岩に打ち寄せる波の文様が渦ではなく、抽象的な線画になっていて、対する岩は切り立つ荒々しさのクラシック。こうしたリズムや対立を構成する力がやがて国宝「松林図屏風」の静かな奥行きのある佇まいへと繋がっていく。艶やかな桃山と水墨画の奥行きの両方を描き分ける等伯は日本美術史上、後の世にどのような影響を与えたのか、知りたいものです。