時間が濾過する記憶 紙とクリスタルの持つ魅力

エリー・トップのクリスタル・ジュエリー
エリー・トップのクリスタル・ジュエリー

2010年3月8日


情報は時間に濾過される、あるいは時間が情報を追い越していく。という訳で今日から再び記録へ。振り返ると12月からの3ヶ月間ジュエリーの情報が集中した時期だった。主だったものだけでも、09年12月17日のTASAKIの新クリエイティブ・ディレクターのタクーン・パニクガルの来日、先立つ12月3日イタリア大使館での〈日本におけるイタリア2009・秋〉クロージング ガーラでのブルガリのハイジュエリー。1月15日〜20日のヴィチェンツァフェア、1月27日〜30日のIJT、2月4日ティファニー、イエローダイヤモンド・コレクションの発表、2月9日ハリー・ウィンストン“The New York Collection ”の発表、2月17日ブシュロン新作、2月18日 ショーメ新作、そして3月2日ミキモトのハイジュエリー展と続く。活発に動き始めた新作。だが時間という濾過器にかけると、不思議なものでジュエリーは語りかけてきたものしか残らない。デザインや色、全体の雰囲気というざっくりとしたイメージから、ディテールの美しさまでこれほど多くのジュエリーの中で、実はほんの一握りのジュエリーだけが記憶に残り続ける。追々これらのジュエリーは仕事の場でもご紹介するとして、今回はむしろジュエリーの規格を超えて届いたものを。

フェアトレードのアクセサリー: People Treeの“スウィーティー・ラッパー・ジュエリー・セット”

2010年2月28日15:00 イギリス大使館
エマ・ワトソンがクリエイト・アドバイザーを務めたティーンエイジャーから大学生向けの People Treeの新コレクションが発表になった。映画『ハリー・ポッターと死の秘宝』の撮影期間中にエマが考えたブリティッシュスタイルのカジュアルなデザインは、シンプルで若々しい。カタログ・モデルとして登場する彼女と身近な友人たちのカジュアルな関係が撮影風景によく出ていて、カタログを新鮮な雰囲気にさせている。その最後のページに掲載されているのが“スウィーティー・ラッパー・ジュエリー・セット”。一見しただけではお菓子の包み紙を巻いてパーツを作っていることが分からない。バングラディッシュの女性グループの手作りのネックレス & ピアスのセットはミラー付きの共箱に入っていて愛らしい。話は飛ぶが、故勅使河原宏氏が1998年サルヴァトーレ・フェラガモ「華麗なる靴」展 (草月会館)を総合監修した時のこと、忘れられない一足があった。キャンディの包み紙を細く紐状にして甲部分を編み込んだサンダルだった。1940年代の戦時で原材料不足の時代、フェラガモはラフィア椰子の繊維やコルクを使い、補いながら製作を続けた。その一つがスイーツの包み紙、透明なきらめきはまるで宝石のように見えたのを思い出させる。“スウィーティー・ラッパー・ジュエリー・セット”は「飾りたい」という小さな女の子の気持ちにもう一度戻してくれる。もちろんエマ・ワトソンが言うように「身につけて気持ちが良いだけでなく、誰かの人生を良くしている」のがフェアトレードの根幹なのだけれど。ピープル・ツリーのホームページはwww.peopletree.co.jp。

バカラの新作ジュエリー: Elie TOPの“ブション・ドゥ・カラフ”コレクション

2010年3月2日18:30 六本木Hills Café/Space
フランス語で大きなダイヤモンドのことを「ブション・ドゥ・カラフ」のように大きいと喩える。それを逆手にとってカラフの栓をダイヤモンドに見立てたクリスタル・リングにしたのが今回の新作、“ブション・ドゥ・カラフ”コレクション。デザイナーのエリー・トップはイヴ・サンローランの最後の弟子としてキャリアをスタート。ジュエリーやハンドバッグのデザインを手がけ、現在はランバンのジュエリー・デザイナーとして活躍している。宝石もそうだが、クリスタルもまたマスターの手ですべてをカット。さまざまなカットがあり、多面カットが構築的でまるで小さな天文台や塔のトップにも見える。イエローゴールドあるいはホワイトゴールドの台座とのジョイント部分がくっきりと互いの美しさを際立てているのが特徴だ。あまりの存在感だが、ダイヤモンドの輝きとは違って、クリスタル特有の抜ける透明感と反射し合う光の調和が現代的。3月19日からトレーディングミュージアム・コム デ キャルソンにて先行販売される。

 

 

  Text & Photos by  ⓒ Kioko Kobayashi